書物の庭|戸田勝久


18|メビウスのセル画輯


“Huit Cellulos Originaux du Film de Moebius et Laloux Les Maîtres du Temps” 1982, S.E.N.H.A. Humanoïdes Associés刊行、限定150部、メビウスサイン入り、30×45cmのバクラム貼り夫婦箱に台紙付8枚のセル画と4ページのテキスト

フランスでは9番目の藝術と言われる「バンド・デシネ(フランス語圏の劇画)」を代表する劇画家メビウス(Mœbius) ことJean Henri Gaston Giraud(1938〜2012)ジャン・ジローは、長年の作画生活の間にアメリカ映画「エイリアン」や「トロン」、「フィフス・エレメント」などのコンセプトデザインを担当し、映画との強い繋がりを持っていた。

1980年、SF作家ステファン・ウル原作の『ベルディド星の孤児』を元にした「時の支配者」のアニメ化をフランスのアニメ監督ルネ・ラルーが企画し、その制作に原画、彩色、脚色で参加して自身初のアニメ映画が完成した。(日本での正式な公開は2001年1月)

「時の支配者」日本版字幕DVD

この映画は、ハンガリーのブタベストにあるパンノニア・フィルム・スタジオで3年かけ現在主流のデジタルペイントでは無く、アニメーターによって約7万枚の動画が描かれ、昔ながらのセル画で制作された。

メビウスは完成時に「この映画を観た時、ボロボロ泣いてしまいシャツを着替えねばなりませんでした。自分が描いたものがアニメーションになったのを観るのは初めてでした、怖いと同時に素晴らしかった」と語っている。

『メビウスの映画、時の支配者の8枚のオリジナルセル画』との題箋

1982年、実際使われたセル画8枚をワンセットにした画集、テキストは無いがある種の現代フランス挿絵本の一種として異彩を放っている。

限定番号とメビウスのサイン

セル画1/ベルディド星に残された孤児ピエール

セル画2/俯くピエール

セル画3/不思議な老人シルバード

セル画4/ピエールを助けに向かう宇宙飛行士ジャファール

セル画5/ピエールの父の友人ジャファール

セル画6/人の心が読める蓮の妖精ユラ

セル画7/跪くピエール

セル画8/悪役の逃亡者マトン王子

アニメ映画制作に使われた大量のセル画は市場に出てファンの間で取り引きされているが、このように制作側がきちんとセットに組んで作品集として販売されたものはあまり見た事がない。

 

手塚治虫、宮崎駿、大友克洋らに影響を与えたメビウスは、素晴らしいデッサン力と洗練された色彩で没後も多くのファンを持っている。

本書はフランスアニメ制作のセル画の「貴重な遺産となるように作られた」と序文に記され、8枚入り150部、合計1200枚の選ばれたセル画は箱に入り世界中で大切に保存されている。


メビウスの本

没後に刊行された画集の一冊。
“the art of EDENA” Written and illustrated by Jean “Moebius” Giraud, 2018, Dark Horse Books

1983年、自動車メーカーシトロエンからの依頼で描かれた広告キャンペーン用のショートストーリーとイラストを纏めた美しい一冊

卓越したデッサン力で描かれたリアルな世界

見事な色彩構成力

懐かしい未来がある

静かに時が流れる宇宙空間

 

戸田勝久(とだかつひさ)

画家。アクリル画と水墨画で東西の境が無い「詩の絵画化」を目指している。古書と掛軸とギターを栄養にして六甲山で暮らす。