白の光束(ルーメン)


サイトヲヒデユキ(装幀・造本家)

装幀・造本設計・グラフィックデザインに携わり東京と沖縄を拠点に活動。東京・高円寺にあるデザイン事務所併設のギャラリー『書肆サイコロ』主宰。古物商。活版印刷業。


1|ME AND MY FATHER





小さな声
微かな揺らぎ
重なりの差異

儚く消えていくものを逃さないように
紙にわずかな光を乗せて
その束を作る。

本が放ち始める静かな輝きが
いつか誰かの心理に至ったとき
1冊のLumenが定まる。


私自身が手がけた本や印刷物のこと、紙や製本のことをアーカイブするというお話しをいただき、物心をついたころに描き始めた線の行き場を探すつもりで、この場を借りて、ここ数年間の光を採集していこうと思う。

 
 

『ME AND MY FATHER』

ボクにとって、
ミミコは明星でさえある。
可憐な美しい花でもある。
—山之口貘「関白娘」より

2013年、ミミコに会った。

「ミミコ」とは山之口貘さんの詩の中に時折登場する一人娘、泉さんのことだ。
山之口家のアルバムをお借りするために、その年の夏、泉さんの住む郊外の街まで会いに行った。
にこりと挨拶する彼女は、冒頭にある貘さんの評どおりの花のように笑う魅力的な人だった。

 
 

アルバムのページをゆっくりと捲りながら、
「これはあの時の写真、
これはあの場所で撮った写真」
と微笑みながら一枚一枚丁寧に教えてくれた。

当時、練馬区にあった友人に間借りしていた家。
そこに在るのは、生活への希望。穏やかな時間。暖かい眼差し—。
詩の中にあったそのままの情景が目の前の写真の中に溢れていた。

生誕110周年という区切りの年。
この宝物のような時間を詩と共に本に封じ込めてミミコに送りたいと思った。

 

Lumen 1

 

次のページに透けて見える写真に詩を重ねて文字組みをする。
言葉は片艶の晒し紙に、写真は木質素の含まれた日焼けしそうな非塗工のザラ紙に乗せる。

その他に、
貘さんのスケッチブックの中の絵。
夢に描いた家の間取り図。
手書きの名刺。
履歴調査書。
そして、写真の裏にあったミミコが書いた文字。


これらを7種の紙を使って、小さな手製本の中に落とし込んだ。

琉球絣の小さい端切れを青く染めて背固めにし、表紙の厚紙は沖縄の伝統的な5色を貼り合わせ、圧の強い活版印刷でタイトルを入れている。

貘さんの沖縄の記憶と
泉さんの父の記憶を蒐めるように。


「ME AND MY FATHER」
山之口貘 アンソロジー
2013年 書肆サイコロ刊
手製本/155×150mm/
スクラム+和綴じ+仮ドイツ装
背固めに琉球絣/50p/表紙5色
編集・装幀 サイトヲヒデユキ
協力:山之口泉・藤井一乃(思潮社)