気取らず 威張らず|清野恵里子

12|拾遺 笹百合が咲いた


 

 4月の終わり、路地の笹百合が蕾を付けた。小さな、いかにも山野草の風情を漂わせる蕾のたたずまいに、開花の日が待ち遠しかった。
 蕾の変化を観察するのが朝のルーティーンとなって3週間が過ぎた頃、急に蕾がぷっくりと膨らんで、やがて紅をさしたように変わったが、一向に開花の兆しはない。
 さらに一週間ほど経って、薄紅色の蕾の先がわずかに開くと、定点観測用のカメラが欲しくなるくらい、刻々と姿が変わった。

 

清野恵里子(せいのえりこ)

群馬生まれ。文筆家。伝統芸能や、古美術、工芸、映画など、ジャンルを超えて、好奇心のおもむくまま、雑誌の企画、執筆など続ける。独自の美意識に基づくきものの取り合わせは、多くのきもの好きに支持される。『咲き定まりて 市川雷蔵を旅する』、『時のあわいに きものの情景』など著書多数。