読めもせぬのに|渡会源一


19|もう一人のリア


英国文学でリア(Lear)と云えば、シェークスピアの「リア王」がまず連想される。ただ多くの英国人にとっては、もう一人のリアもお馴染みなのではないだろうか。ザ・ビートルズの「Paperback Writer(三文文士)」に登場するリアという名の作家は、そのもう一人のリアを意識したものだと思われる。ナンセンス詩人の肩書きを持つエドワード・リア(1812-1888)である。その詩は「マザーグース」とともに、ルイス・キャロルやアガサ・クリスティをはじめとする作家たちに結構な影響を与えており、日本でも主な作品が訳出されている。

以下は1880年の作品集『A Book of Nonsense』より


挿絵も自分で描いている。というか実はこのリア氏の「本業」は画家なのである。それも博物画家、つまり博物図鑑の精緻な図像の制作者である。19歳でロンドン動物園に依頼されて『オウム図譜』を出版したのを皮切りに、その技術を見込まれてヴィクトリア女王に絵の手ほどきをしたこともあり、その筋では神格化されているアメリカの鳥類画家ジョン・ジェームズ・オーデュボン(1785-1851)とも並び称されるほどの腕前だったのだ。

以下『Illustrations of the Family of Psittacidæ, or Parrots オウム・インコ類』(1830-32)より

以下『A monograph of the Testudinata カメ類写生図譜』(1836)より


ナンセンス詩と博物図像、あまり直接関係がなさそうにも見えるが、リア氏にとっては、人間の想像力や造形力を大きく超える生物たちのカタチもまた、とびっきりのナンセンスに感じられたのかもしれない。

リアの風景画「Howatke」

リア自画像

 

渡会源一(わたらいげんいち)

東京都武蔵野市出身。某財団法人勤務のかたわら、家業の古書店で店員見習い中。


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