読めもせぬのに|渡会源一


23|昔々パリの街で


日本人にとっての憧憬の対象が京の街なら、西洋人のそれはパリかも知れない。何と云っても「花の都」である。「パリのアメリカ人」と云う映画もあった。きっと京都と同様に古くから多くの案内書の類が作られて来たのだろう。
パリと云う土地名の由来は、紀元前3世紀頃にセーヌ川のシテ島周辺に定住したケルト系のパリシイ族だとされている。それまでは泥を意味するルテティアと呼ばれていたそうだ。奈良のナットウ(710)やナクヨ(794)ウグイス平安京よりはだいぶ古い。
そんな古いパリのガイドブックを捜していたら「Paris avant les hommes」(1861)と云う一冊にぶつかった。直訳すれば「人類以前のパリ」である。つい深読みというか、勇み足をして、有史以前のパリ、あるいは文明化以前のパリの遺跡を紹介したものだと思ってしまった。ところがページを開くといきなり猿人が登場した。
つまりタイトルそのままの内容だったのである。著者のピエール・ボアタール(1789−1859)は植物学者にして古生物学者なのだ。要するにパリの古代世界を描いた本であるのだが、ちょっと腑に落ちない。フランス東部のジュラ山脈やドイツ南部のゾーレンホーフェンあたりなどなら兎も角、パリでそんなに化石が発掘されたという話、寡聞にして聞いたことがない。まあ、パリジャンのための啓蒙書だったのだろう。それでも花の都にアメリカ人ならぬ猿人を配したあたり、少々ではあるが気が利いている。

扉裏の「化石人類」の図

本文冒頭の「ピエール・ボワタールと、隕石に乗った足の不自由な悪魔」の図。悪魔が、人類以前のパリについて説明したとされている。


以下は「人類以前のパリ」に掲載された古代動物の図譜など(ただし一部は現生のものも含む)

 

渡会源一(わたらいげんいち)

東京都武蔵野市出身。某財団法人勤務のかたわら、家業の古書店で店員見習い中。