読めもせぬのに|渡会源一
25|大英博物館の珍品目録
美術館や博物館は、うっかりすると少々お洒落なデートスポットとして紹介される。その起源を辿ってみれば、美術館や博物館は、お洒落とは程遠いことが判る。
ヨーロッパでは、15世紀から18世紀にかけて王侯貴族たちの間で、「ヴンダーカマー(驚異の部屋)」というものが流行した。要するに好奇心に飽かせて集めた珍品奇品や戦利品を一切合切並べて見せびらかすための「部屋」である。神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552-1612)やデンマークの博物学者のオーレ・ヴォーム(1588-1654)のものが有名である。なぜか日本には図書館も含めその手の施設は殆どなかった。だから文明開化の時代に、お国が博物館を拵えても、多くの人々にとっては、その存在意味が理解できなかったのだろう。
オーレ・ヴォームの「ヴンダーカマー」
ナポリのフェッランテ・インペラートのヴンダーカマー(17世紀初頭)
見方によっては世界一の博物館であり、世界初の公立博物館でもあるイギリスの大英博物館も、元を正せばハンス・スローン卿(1660-1753)のヴンダーカマーである。このスローン卿は、チョコレートミルク飲料の発明者としても知られている。
準男爵サー・ハンス・スローン(Sir Hans Sloane)
スローン卿の死後、その遺言によりコレクションは英国議会に寄贈され、1759年、ジョージ2世の蔵書と併せて、大英博物館が開館する。だから当初の大英博物館の収蔵品は、珍品奇品のオンパレードだったのである。初期の収蔵品目録に『Museum britannicum, or, A display of thirty two plates, in antiquities and natural curiosities, in that noble and magnificent cabinet, the British Museum, after the original designs from nature』(1791)がある。荒俣宏氏は、この目録を『大英博物館珍品目録』と意訳した。原著タイトルには「珍品」の語はない。あくまでも代表的な収蔵物であるものの、実際は珍品奇品の目白押しなのである。大真面目にこういう事物を並べた目録制作者、ライムズディック氏の心中を察すると、何とも微笑ましくなるというもの。こんな博物館、現代の日本でも誰か作ってくれないものだろうか。
『大英博物館珍品目録』より、サイホウチョウの巣
『大英博物館珍品目録』より、ローマ軍の軍旗(シグナム)などの装飾の一部と思われるオブジェ
『大英博物館珍品目録』より、中国の奇宝「世界の眼」(実は真珠)
『大英博物館珍品目録』より、錬金術で作られた黄金のペンナイフ
『大英博物館珍品目録』より、二重の殻をもつ卵(下)
『大英博物館珍品目録』より、天国の鳥
フウチョウの1種だが、当時は現地で剥製にする際、美しい羽を痛めないよう脚が切り取られていたので、ヨーロッパでは脚のない鳥だと考えられていた。
『大英博物館珍品目録』より、バベルの塔の残骸(上)
『大英博物館珍品目録』より、中央は断面にチョーサーの肖像が現れた「チョーサー石」(下は一般に知られていたチョーサーの肖像画)
『大英博物館珍品目録』より、サンゴの手と石に覆われたタンブラー
『大英博物館珍品目録』より、スキタイの羊(下)
スキタイの羊は、バロメッツとも呼ばれ、近東、中国、モンゴル、ヨーロッパ各地の荒野に分布するといわれた伝説の植物で、羊の入った実がなると考えられていた。
渡会源一(わたらいげんいち)
東京都武蔵野市出身。某財団法人勤務のかたわら、家業の古書店で店員見習い中。
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