空っぽの月


27|月のおわりに


 
 

このプレイリストも、いよいよ千秋楽。おわりの月ということになる。月のはじめは「朔」であり、月のおわりは「晦」である。それは暦のひと月のことではあるけれど、お月さまが再生するのが「新月」ならば、やっぱりお月さまのおしまいは「晦」ということになるのかもしれない。

だから月の音楽を集めるのなら、30曲がよりふさわしい区切りなのだが、集めているうちにどんどん増えて、いつの間にか山盛りの月見団子のようになってしまった。実際は、100曲でも足りないくらいである。ただし、30曲を見当にして集めていた当初から、最後に並べる3曲は決まっていた。

Little Feat "Spanish Moon"

その3曲の手前には、リトル・フィートを置くことにした。リトル・フィートは、はっぴいえんど(とくに細野晴臣、大瀧詠一)をはじめとする日本のバンドにも大きな影響を与えている。あるアメリカの音楽評論家に、はっぴいえんどを聴かせたところ、「これってリトル・フィートとモビー・グレープのパクリだね」と一蹴されたという逸話もある。個人的には昔からリトル・フィートよりモビー・グレープをよく聴いてきた。いまでこそあまり話題に上ることが少なくなったものの、日本だけでなく欧米の音楽シーンへの影響ということでは、モビー・グレープもかなりのものだと思う。
リトル・フィートの"Spanish Moon"をあらためて聴いて、月のおわりを飾る1曲にしたくなった。スタジオ盤もあるが、断然ライヴがいい。単純にベースの音が大きくパーカッションが際立っているだけでなく、グルーヴ感が違う。単純なコードとベース・リフで、フィニッシュまで一気に聴かせてしまう。いまもファンの多いバンドであることに納得である。

King Crimson "Moonchild including The Dream and the Illusion"

ロック・ジャンルにおける月の曲の定番。収録アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」は、発表と同時に大きな反響を巻き起こした。ちょうどザ・ビートルズの実質的な最終アルバム「アビー・ロード」と入れ替わるように登場し、新時代の到来を感じさせたものである。
この曲は、小品でシンプルなアレンジの"Moonchild"とけっこう長いインプロヴィゼーションの"The Dream and the Illusion"が一体になっている。後半をカットすることも考えたが、当初は少々退屈でうんざりもしていた"The Dream and the Illusion"にも、何度か聴いているうちに愛着が湧いてしまった。それに、これがあるからこそ"Moonchild"も、次に来る曲も活き活きと輝くように感じられるのだ。

The Waterboys "The Whole of the Moon" 

長い長い"The Dream and the Illusion"の後で、この曲のイントロがはじまると、生き返った気分になる。この順番はたまたまなのだが、いつの間にやらどうにも動かし難いものになってしまった。
ザ・ウォーターボーイズは、デヴュー時はニューウエイヴのバンドと目され、間もなくアイリッシュ・トラッドの要素を取り入れることによってそのサウンドの幅を大きく広げた。この曲は、アイリッシュ・トラッドの影響を受ける以前の作品。サウンドづくりには、ザ・ビートルズの影響がうかがえる。

Audrey Hepburn "Moon River"

締めくくりの"Moon River"は、メアリー・ブラックによるカヴァーにしようと考えていた。その後、耳になじんだアンディ・ウイリアムズに変更。かつて母親がNHKの「アンディ・ウイリアムズ・ショー」が好きだったこともあって、彼の十八番の"Moon River"は、子どものころから知っている数少ない英語曲だった。ただしその番組で聴いたはずの他のスタンダード・ナンバーについては、まったく覚えがない。
最終的に、オリジナルに落ち着いた。映画「ティファニーで朝食を」は観てはいるものの、この曲のシーン以外はほとんど印象に残っていない。例のキュウリのサンドイッチも、記憶にない。この"Moon River"のシーンでは、最後に「何してるの?」とオードリー、「書きものさ」とジョージ・ペパード。まがりなりにも書きものを生業としている身にとっては、なんともたまらないエンディングなのである。

[拾遺]

さて最後の最後に、これまで候補に挙げながら、リストから外した曲の一部を紹介しておくことにする。

Adrian von Ziegler "Moonsong"

Asia "Two Sides of the Moon"

Björk "Moon"

Blue Öyster Cult "Harvest Moon"

Bob Marley "Pale Moonlight"

Buddy Holly "Moondreams"

François Elie Roulin "Moonday"

Gerry Rafferty "Look at the Moon"

Ian Anderson "A Better Moon"

Joe Jackson "Moonlight"

John Lennon "Memory (howling at the moon)"

Kanye West "Moon"

Kate Bush "Stranded At The Moonbase"

The Kinks "Full Moon"

Lenny Kravitz "A Moon and Stars"

Mike McGear "The Man Who Found God on the Moon"

The Moody Blues "Under Moonshine"

The Mothers of Invention "Concentration Moon"

Pentatonix "Talking to the Moon"

Ramones "Howling at the Moon(Sha-La-La)"

Sgt. Rutter's Only Darts Club Band "Hobgoblins(East of the Moon)"

Sinéad O'Connor "Tears From The Moon"

Stackridge "To the Sun and the Moon"

The Stranglers "Rok it to the Moon"

Thelonious Monk "Carolina Moon"

Tyrannosaurus Rex "By the Light of a Magical Moon"

Ultravox "Moon Madness "

 

草野道彦(くさのみちひこ)

雑想家、図像コレクター。奥州雫石に生まれ、信州伊那で育つ。図像学は荒俣宏に師事。某アマチュア・ロックバンドでエレクトリック・ベースを担当。


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