relay essay|連閏記


17|日本製? 海外製?

堂場瞬一(作家)


 

2022年、エレキギターをオーダーしようと思い立った。きっかけは長引くコロナ禍にうんざりしていたこと、そして2023年に60歳になるのでその記念的な感じとして……有名な国産メーカーの店舗に出向いてあれこれ相談したものの、結局オーダーはできなかった。

昔憧れていた国産ギターのデザインを再現してもらおうと思っていたのだが、「それはちょっと……」と断られてしまったのだ。つまり、デザインのコピーは著作権的に問題があるということである。言われてみればごもっとも。とはいえそのメーカーは、海外のギターの明らかなコピーモデルを作っているのだが。それを指摘すると「それはそれで」と曖昧な返事。何が「それはそれで」なのやら。

さらに木材などの原材料不足、バックオーダーを大量に抱えているせいもあり、注文しても完成は2年から3年先だと言われて諦めた。というわけで、オーダーは叶わなかったものの、「憧れの国産モデル」を「国産メーカーで」リメークと、「国産」にこだわっている自分に気づいて驚いた。

ギターを弾き始めて40年以上になるのだが、初めてエレキギターを手にした中学生の頃は、海外ブランドが憧れの的だった。2大ブランドのフェンダー、ギブソンは、当時は非常に高価で、まったく手が届かない雲上の存在だった。そして国産メーカーは、この2つのブランドのコピーモデルを作っていることが多かった。私も、その手のコピーモデルを何本も使い続けてきた。

とはいえ40年以上もギターを弾いていれば、海外モデルも数多く手にしてきた。

しかし実際に弾いてみると、期待していたよりもよくない—ということが多かった。何というか、造りが雑なギターが多かったのだ。

エレキギターはアメリカで本格的に生産が始まり、ロックンロールの黎明期からポピュラーミュージックの「主役」になった。だからこそアメリカ製のギターを「本場物」と憧れていたのだが……。

何十本と遍歴してたどり着いた今のメーン機は、結局、国産のアイバニーズ(ヘビメタ御用達とよく言われているが、実際は万能だ)というメーカーのモデルである。木材の組みこみ精度、強度、弾き心地、全てのレベルの高さに満足している。これに出会っていたからこそ、海外メーカーではなく国産メーカーでオーダーしたいと考えたのだ、と改めて思う。もちろん、国産メーカー全てがいいわけではないだろうが。

その「60歳記念」のギターだが、まだ諦めたわけではない。憧れのモデルを「復刻」できなければ、国産の信頼できるメーカーの現行モデルという手もある……。

しかし、ちょっと引っかかっていることがある。

どんなメーカーのギターにも「当たり」と「外れ」があるという話をよく聞く。エレキギターは半分工業製品、半分手工芸品のようなもので、大量生産のラインから出てきても、全てが同じ品質になるとは限らない。「エレキ」とはいえ、全体の9割は木材である。木は自然素材なので、どんなに同じ環境で保存して加工・処理しても、全てが同じ弾き心地・音色のギターには仕上がらない。

だから、私が「イマイチ」と感じている海外メーカーのギターでも、時々「これは」という当たりの一本が出ることもあるはずだ。私が今まで手にしていないだけなのかもしれない。

しかもギターというのは、最初に手にした状態が完成品ではない。何年も弾き倒すうちに、木材部分はさらに乾燥し、音色が変わってくる。最初はよかったと思っていたものが、何年かすると全然鳴らなくなることもあるし、逆もまた真なり。だからこそ、何十年も前のギターが貴重品として、とんでもない価格(数千万円も!)で売買されることがある。

工作精度が高く、比較的品質の安定している国産モデル(アイバニーズだけでなくヤマハもよさそうだ)を選ぶか、それとも一種のギャンブルとして海外モデルに手を出すか。

こういうことで悩むのは、決して悪くない趣味だと思うが、いかがだろうか。