楽の器|土取利行


12|マリ共和国ドゴン族の楽器


サンガ村バナニ住居群

 ドゴン族は、西アフリカのマリ共和国のバンディアガラ断崖地方に集中して住む部族集団である。マリという国名は13、4世紀を頂点として栄えたマリンケ族を始祖として築かれた大帝国に由来し、ドゴン族もこの頃は帝国の一構成民族だったと言われている。が、帝国に浸透してくるイスラーム化の波を逃れるために、土着の信仰を持つ彼らは、バンディアガラの辺境地に移住していったと言われる。現在のマリ共和国は多民族国家であり、多くの民族はイスラーム化している。しかしドゴン族は、イスラームの影響を逃れて孤立し、辺境の地で神アンマを中心とした宇宙開闢説を基に、今も神話の世界を生きている。
 フランスの民族学者マルセル・グリオールの著書に『水の神』(坂井信三、竹沢尚一郎訳、せりか書房)がある。グリオールは1946年10月から33日間にわたり、ドゴン族の長老、盲目のオゴテメリとの会話を交わし、彼らのコスモロジーを描いた。その後25年間にわたってドゴン族の現地調査を続け、数々の名著も残している。ドゴン族の存在を学術的に明らかにしたグリオールの功績は民族学者に大きな影響を与え、私がドゴン族の村バンディヤガラを訪問した時にも、研究を続けるオランダの民族学者が居住していた。
 1979年8月、マリ共和国を初めて訪れた。ピーター・ブルック劇団で活動するようになって3年が経っていた。劇団にはマリ出身のマリク・バガヨゴという俳優がいて彼と演奏をしたり、話を聞いたりしていたのでいつか行ってみたいと思っていた。ちょうど演劇公演が終わり、フランスがヴァカンスに入った頃、パリで知り合ったI氏から友人の人類学者がマリのドゴン族の調査にゆくので同行してみないかという話が舞い込んできた。当時はドゴン族と言われても全くわからず、俳優のマリクはバンバラ族ということであまり詳しくはなかったが、N氏の目的に音楽調査もあるということで、参加することになった。
 同行者は4人だったがそれぞれが出発地や時刻が異なるため、ドゴン族の居住地バンディアガラで落ち合うことになっていた。マリの首都バマコで先に着いていたN氏と会って、翌日サヴァンナの道をぎゅうぎゅう詰めの乗合自動車で走ること600キロ、モプティのニジェール川船着場に着いた。近くの宿に2日間の滞在後、さらに60数キロ先のバンディアガラまで乗合自動車で出かける。土作りの四角い簡素な民家が建ち並ぶ村に着いて、広野の広がる中にポツンと建つ宿泊所に一先ず落ち着く。
 私たちの目的地はバンディアガラの街からさらに40キロほど離れたサンガ村で、そこにゆくには定期的に開かれるトラックに便乗するしかない。サンガ村での市は5日に一度の五日市。5日はドゴンの一週間にあたる。2日後、バンディアガラの広場に大型トラックが並び、人々が次々と市でうる大きな荷物を積み上げている。私たちは荷物の上に乗った人たちに板挟みになって、悪臭を放つ重量オーバーのトラックに揺られてゆく。サンガまではコンクリートの車道などなく、崩壊した道も多く、私たち乗客は重量軽減のために何度も歩かされ、結局40キロたらずの距離を4時間もかかって村に到着。

サンガの岸壁に並ぶドゴン族の穀物蔵


 巨大な岩の断崖の中腹から裾野にかけて円錐形の藁屋根を被せた四角い土作りの家がびっしりと並び建つドゴン族のバナニ住居群。神話の原郷といわれるここに入るには政府公認のガイドが必要となる。朝6時に迎えにきたガイドの案内で私とN氏は出かけたが、あまりに私たちがゆっくりと見学するため、終われば事務所に連絡をといって先に帰ってしまった。おかげでこの不思議な建造物をじっくりと見ることができた。
 見学を終えた私たちはドゴン研究を続けているオランダの民族学者マルセル教授を訪ね、サンガでドゴン族の音楽を聞くことができるか相談してみたが、今は農繁期に入っており、1ヶ月後までは大きな祭りもないので難しいという返事。それでも村長に相談すればなんとかなるのではということで、私たちはすぐに村長を訪ねた。容易ではないが、演奏家たちに多少の礼をしてくれるなら声をかけてみようということで、4日後にサンガ村の広場で音楽家たちが集まることになった。
 村長は約束通り、私たちのために音楽家を集めてくれた。夕方宿泊所の近くの広場には六人の演奏家と、子どもたちが大勢聴きに来た。楽隊は太鼓、鐘、角笛、歌といった編成。

ドゴン族の楽隊


 太鼓は二種類、一つは円筒形にくり抜いた木の胴の両面に皮を張って革紐で締めたボイトラと呼ばれるもの。高さ40センチ、直径30センチほどで、太鼓は紐で肩から吊るして腰の辺りにつけ、2本のバチで叩く。

楽器は上よりボイトラ、ガンニャナ、カントロ


 もう一つの太鼓はゴム・ボイという砂時計型の締め太鼓。西アフリカでよく見る太鼓で、ドゴン族が使用するのは長さ40センチ、直径15センチの概して小型である。演奏は脇に抱えて先の湾曲したバチで打つ。
 鐘はガンニャナといい、かなり肉厚のある重いものだ。高さ30センチ、吊り手部分を左手で握り、右手のバチで打ち鳴らす。
 これら打楽器群に、カントロという角笛が加わる。カモシカの角をくり抜き、先端部に吹き口を設け、トランペットのように吹き鳴らす。
 旋律楽器ではなく、曲の途中などでブーブーという音を加える楽器だ。これは50センチくらいだが、さらに長いオゴンブルという角笛もある。
 これらの楽器演奏で歌がうたわれる。彼らが紹介してくれたのは農耕儀礼に関したもので、一人の歌い手に器楽奏者が合唱で掛け合うスタイルだ。五音音階の短い旋律を反復するもので、伴奏の太鼓のリズムも極めて単純、ほとんどユニゾンの拍子で打つ。
 2日目に私たちが聴かせてもらったのは結婚式などの歌で、これらは、次回で紹介したい。

 
 

土取利行

1950年、香川県生まれ。パーカッショニスト、ピーター・ブルック劇団音楽監督、縄文鼓・銅鐸・サヌカイト奏者。現在は岐阜県郡上八幡を拠点に活動中。